相続した家を貸したときの確定申告|不動産所得の書き方・経費・減価償却・申告が要らない条件
相続した家を人に貸して受け取る家賃は、不動産所得です。所得の金額は「総収入金額 − 必要経費」で、相続した建物の減価償却費も必要経費にできます。給与を1か所から受けている人は給与・退職所得以外の所得金額が20万円以下、公的年金等を受けている人は年金以外の所得金額が20万円以下(年金の収入が400万円以下の場合)なら、確定申告は要りません。この記事は、国税庁の原文で、申告の要否・収入と経費・相続した建物の減価償却・赤字の扱い・共有名義の分け方を整理します。
確定申告が要る人・要らない人
家賃の収入があっても、ほかの収入の状況によっては確定申告が要りません。目安になるのは、収入ではなく、収入から必要経費を引いた所得金額が20万円を超えるかどうかです。
| あなたの場合 | 申告が要らなくなる条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 給与を1か所から受け取り、全部が源泉徴収されている | 給与・退職所得以外の各種の所得金額の合計が20万円以下(給与の年収が2,000万円超の人は対象外) | No.1900 |
| 公的年金等を受け取っている | 公的年金等の収入が400万円以下で、年金に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下 | No.1600 |
出典:国税庁 No.1900・No.1600(令和8年4月1日現在法令等)。給与を2か所以上から受けている人、自営業の人、上の条件に当てはまらない人は、申告が要るかどうかが変わります。
- 20万円は所得金額:不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」の金額で見ます。家賃の収入が20万円を超えていても、経費を引いた所得金額が20万円以下なら、この判定では申告が要りません。
- 住民税は別:国税庁は、公的年金等以外の所得金額が20万円以下で確定申告の必要がない場合でも、住民税の申告が必要な場合があるとしています(No.1600 の注)。お住まいの市区町村に確認してください。
- 還付になる人:給与所得者の表(No.1900)は、確定申告をすれば税金が還付される人を、申告が必要な人から除いています。
不動産所得の計算:収入に入れるもの
不動産所得は、土地や建物などの不動産の貸付けによる所得で、次の式で計算します(国税庁 No.1370)。
不動産所得の金額
総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額
総収入金額には、家賃のほかに、次のものも入ります(No.1370)。
- 名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受け取るもの
- 敷金や保証金のうち、返還を要しないもの
- 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代、掃除代など
敷金や保証金は本来は預り金なので、受け取っただけでは収入になりません。返還を要しないことが確定した日に、その金額を収入に計上します(No.1376)。
いつの収入にするか
- 契約や慣習で支払日が決まっている家賃:その支払日の収入
- 支払日が決まっていない家賃:実際に支払を受けた日(請求があったときに支払うと決めたものは請求の日)
- 権利金や礼金:貸す資産の引渡しが必要なものは引渡しの日、不要なものは契約の効力が生じた日
出典:国税庁 No.1376。
必要経費にできるもの・できないもの
必要経費にできるのは、不動産の収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものです(国税庁 No.1370)。収支内訳書の手引きには、次の科目と例が載っています。
| 科目 | 具体例 | 注意 |
|---|---|---|
| 租税公課 | 固定資産税、不動産取得税、登録免許税、印紙税 | 所得税・相続税・住民税は経費になりません |
| 損害保険料 | 貸している建物の火災保険料 | 自分で使う部分があればあん分 |
| 修繕費 | 貸している建物の修繕のための費用 | 価値を増す・使用可能期間を延ばす支出は資本的支出で、減価償却の対象 |
| 減価償却費 | 建物・建物附属設備・構築物の償却費 | 相続した建物の計算は次の章 |
| 借入金利子 | 貸している建物を取得するための借入金の利子 | 元本の返済は経費になりません |
| 地代家賃 | 貸している建物の敷地の地代 | 土地が借地のとき |
| 雑費 | 他の科目に当てはまらない業務上の費用 | 特殊な経費は空欄に科目を設けて書けます |
出典:国税庁「令和7年分収支内訳書(不動産所得用)の書き方」。
- 自分で使う部分があるとき:建物の一部を貸している場合の火災保険料や固定資産税、修繕費のうち自分で使う部分や、水道料・電気料に含まれる家事分は、必要経費になりません。貸付面積や保険金額などの適切な基準であん分します。
- 借入金:返済額のうち元本に当たる部分は、必要経費になりません。
- 修繕か資本的支出か:資産の価額を増したり使用可能期間を延ばしたりする支出は、原則として資本的支出で、一つの減価償却資産を取得したものとして減価償却をします。
相続した建物の減価償却費の出し方
建物の取得に使った金額は、買ったその年に全額が経費になるのではなく、使える期間にわたって少しずつ必要経費にします。これが減価償却です(国税庁 No.2100)。相続した建物では、取得価額の扱いと、自宅だった家を貸し始めるときの計算が分かりにくい点です。
取得価額は被相続人のものを引き継ぐ
贈与・相続・遺贈で取得した減価償却資産の取得価額は、その資産を引き続き所有していたものとみなした場合の取得価額に相当する金額とされています(所得税法施行令126条2項)。国税庁の手引きも、相続で取得した資産の取得価額は、被相続人などの取得価額を引き継ぐなど特別の計算をする場合があると書いています。償却方法は、相続による取得も「取得」に含まれ、平成10年4月1日以後に取得した建物は旧定額法または定額法のみで、届出をしないときの法定の方法は旧定額法または定額法です(No.2100・No.1399)。この記事の例は、平成19年4月1日以後の取得として定額法で計算します。
自宅だった家を貸し始めるときの未償却残高
業務に使っていなかった建物を貸し始めるときは、貸し始めた日の未償却残高を、次の算式で出します(国税庁の手引き、所得税法施行令135条・85条)。売るときの取得費の計算(相続したマンションを売ったときの税金)と同じ計算方法です。
貸し始めた日の未償却残高
取得価額 − 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 業務に使っていなかった年数
- 償却率:建物の法定耐用年数の1.5倍の年数(1年未満の端数は切り捨て)に対応する旧定額法の償却率です。木造は0.031です(No.3261)。
- 年数:業務に使っていなかった期間のうち、6か月以上の端数は1年、6か月に満たない端数は切り捨てます。
- 限度:減価償却費相当額は取得価額の95%までです。
貸してからの毎年の償却費
貸し始めてからは、定額法で「取得価額 × 償却率」を毎年の必要経費にします。耐用年数は法定耐用年数ではなく、中古資産として、取得後の使用可能年数を見積もった年数にできます。見積もりが難しいときは、大規模な改良をしていない限り、次の算式の年数(2年未満は2年、1年未満の端数は切り捨て)を使えます(国税庁の手引き、減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条)。
- 法定耐用年数の全部を経過した建物:法定耐用年数 × 0.2
- 法定耐用年数の一部を経過した建物:法定耐用年数 −(経過年数 × 0.8)
計算例:築18年の木造住宅を相続して貸す
被相続人が自宅として18年使った木造住宅(新築時の建物の取得価額 1,800万円)を相続して、そのまま貸し始める例です。住宅用の木造の法定耐用年数は22年です(耐用年数省令別表第一)。
貸し始めた日の未償却残高と、毎年の償却費
減価償却費相当額 = 1,800万円 × 0.9 × 0.031 × 18年 = 904万円
貸し始めた日の未償却残高 = 1,800万円 − 904万円 = 896万円
耐用年数 = 22年 −(18年 × 0.8)= 7.6年 → 切り捨てて 7年(定額法の償却率は 0.143)
毎年の償却費 = 1,800万円 × 0.143 = 257.4万円
| 貸した年数 | その年の償却費 | 年末の未償却残高 |
|---|---|---|
| 1年目 | 257.4万円 | 638.6万円 |
| 2年目 | 257.4万円 | 381.2万円 |
| 3年目 | 257.4万円 | 123.8万円 |
| 4年目 | 123.8万円 | 0万円 |
1年を通して貸した場合の試算です。年の中途で貸し始めた年は、貸していた月数で12分の1ずつ按分します(国税庁の手引き)。経過年数の数え方(相続した建物の築年数をそのまま使う想定)は手引きに定義が書かれていないため、実際の耐用年数は税務署か税理士に確認してください。被相続人がすでに貸していた建物を相続した場合の計算式は、原文で確認できなかったため、この記事では扱いません。
赤字になったとき:損益通算できるもの・できないもの
減価償却費を入れると、家賃の収入より経費が大きくなり、不動産所得が赤字になることがあります。不動産所得の損失は、ほかの黒字の所得(給与所得など)から差し引けます(損益通算)。
ただし、次の損失は損益通算の対象になりません(国税庁 No.1391)。
- 別荘等:主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る損失
- 土地等を取得するための借入金の利子:必要経費に入れた、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
後者があるときは、収支内訳書にその負債の利子の額を書き、申告書の第一表の「不動産」の所得金額欄は、原則として0にします。その借入金利子の額が赤字の額より少ないときは、0ではなく赤字の額との差額を△で書きます(国税庁の手引き)。
貸し続けるか、売るか:貸した期間は売るときの取得費にも響く
貸した期間の減価償却費は、あとで売るときの建物の取得費から引かれます。国税庁 No.3261 は、事業に使われていた建物の減価償却費相当額を、取得してから売るまでの毎年の減価償却費の額の合計とし、必要経費にしていない年があっても合計すると書いています。償却費を多く取ったぶん、売るときの取得費は小さくなり、譲渡所得は増えます。
貸す収支と売る手取りを並べたいときは、売却 vs 賃貸の収支比較で10年ぶんの手取りを試算できます。売ったときの税額は譲渡所得の計算ツールで出せます。借り手がつかない、修繕費がかさむなどで貸し続けるか迷うときは、売る場合の買取額を先に知っておくと比べやすくなります。
共有名義・遺産分割前の家賃は誰の所得か
資産から生じる収益を受ける人は、その資産の真実の権利者で判定し、それが明らかでないときは、資産の名義者が真実の権利者と推定されます(所得税基本通達12-1)。
- 遺産分割が終わっていないとき:相続財産は各共同相続人の共有で、そこから生じる所得は、各共同相続人に相続分に応じて帰属します。家賃が特定の人の口座に入っていても、分割が確定するまでは法定相続分に応じて申告します。
- 分割が確定したあと:分割の効果は未分割期間中の所得の帰属に影響しないため、分割の確定を理由に更正の請求や修正申告はできません。
出典:国税庁 No.1376 の質疑応答「未分割遺産から生ずる不動産所得」。分割して共有名義にしたあとの按分の割合は、原文で確認できなかったため書いていません。共有名義の不動産を売る・分けるときは共有名義の不動産を売却・分割するには、遺産分割の書類は遺産分割協議書の書き方で説明しています。
事業的規模か、そうでないか:青色申告の控除額が変わる
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかで、所得の計算が変わります。国税庁 No.1373 は、建物の貸付けについて、貸間・アパートなどは独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上なら、原則として事業として行われているものとして取り扱うとしています。相続した家を1棟貸す場合は、これに当てはまらないことが多くなります。
| 項目 | 事業的規模 | それ以外 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 要件を満たせば55万円(電子帳簿保存かe-Taxで65万円) | 最高10万円 |
| 専従者の給与・控除 | あり | なし |
| 取壊し・除却の損失 | 全額を必要経費に算入 | その年の不動産所得の金額が限度 |
| 家賃の回収不能 | 回収不能になった年の必要経費 | 収入に計上した年にさかのぼって計算し直す |
出典:国税庁 No.1373・No.2072・「令和7年分青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」。事業的規模でない貸付けは、他に事業所得がある場合を除き、55万円(65万円)の控除は適用されません。
青色申告にするには、貸し始めた年から使うなら開業の日から2か月以内(1月15日以前に開業した場合は3月15日まで)に所得税の青色申告承認申請書を出します。決算書類は、青色申告なら青色申告決算書(不動産所得用)、白色申告なら収支内訳書(不動産所得用)を使います(国税庁の手引き)。
申告書の書き方と出し方
- 1年分の収入と経費を集める。家賃の入金記録、固定資産税の納税通知書、火災保険の証券、修繕の領収書、借入金利子の年間の合計を用意します。
- 収支内訳書(白色)か青色申告決算書(不動産所得用)を書く。収入の内訳には、貸家か貸地かの別、用途、賃貸契約期間、貸付面積、家賃の月額と年額、礼金・権利金・更新料、敷金などを書きます。国税庁は「令和7年分収支内訳書(不動産所得用)の書き方」と「令和7年分青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」に記載例を載せています。
- 申告書に不動産所得の金額を移す。確定申告書等作成コーナーは、画面の案内に沿って金額を入力すると、必要な付表や明細書も自動で作られ、マイナンバーカードでe-Taxにより提出できます。
- 期限までに出す。確定申告の期限は翌年3月15日です(国税庁 No.2072)。
白色申告でも、不動産所得を生ずべき業務を行う人は、記帳と帳簿書類の保存が必要です(国税庁の手引き)。
よくある質問
家賃収入が年20万円以下なら、申告は要りませんか?
20万円は収入ではなく、収入から必要経費を引いた所得金額です。給与を1か所から受けていて、その全部が源泉徴収されている人は、給与・退職所得以外の各種の所得金額の合計が20万円以下なら確定申告は要りません(国税庁 No.1900)。給与を2か所以上から受けている場合や、給与以外の所得がいくつかある場合は条件が変わるため、No.1900 か税務署で確認してください。申告が要らない場合でも、住民税の申告が必要になることがあります(国税庁 No.1600 の注)。
遺産分割が終わる前に入った家賃は、誰が申告しますか?
国税庁の質疑応答は、遺産分割が確定していない間の相続財産は各共同相続人の共有で、その財産から生じる所得は各共同相続人にその相続分に応じて帰属するとしています。特定の人が家賃を管理していても、分割が確定するまでは法定相続分に応じて申告します。分割が確定したあとも、確定を理由に未分割期間の申告をやり直す(更正の請求や修正申告)ことはできません(No.1376 の質疑応答)。
相続税を払ったぶんは、不動産所得の経費になりますか?
なりません。国税庁の収支内訳書の手引きは、所得税・相続税・住民税・国民健康保険税などは必要経費にならないと書いています。相続税の一部を、あとで相続した不動産を売るときの取得費に加算できる特例は別の制度です(取得費加算の特例の計算ページで試算できます)。
不動産所得が赤字のときは、給与などと通算できますか?
不動産所得の損失があるときは、ほかの黒字の所得から差し引けます(損益通算)。ただし、別荘のように主として趣味・娯楽・保養・鑑賞のために持つ不動産の貸付けによる損失と、必要経費に入れた土地等を取得するための借入金の利子にあたる部分は、通算の対象になりません(国税庁 No.1391)。
貸し始めたら、税務署にどんな届出が要りますか?
国税庁 No.1399 は、事業的規模の貸付けを始めたときは開業の日の属する年分の確定申告期限までに個人事業の開業・廃業等届出書を出し、貸し始めた年から青色申告にするときは開業の日から2か月以内(1月15日以前に開業した場合は3月15日まで)に所得税の青色申告承認申請書を出すとしています。償却方法を選ぶ場合の届出は、開業した年の翌年3月15日までです。届出をしない場合の償却方法は法定のものになります。
参考・出典
- 国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 No.1376 不動産所得の収入計上時期(質疑応答:未分割遺産から生ずる不動産所得)
- 国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
- 国税庁 No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など
- 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
- 国税庁 No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 No.3261 建物の取得費の計算
- 国税庁 令和7年分収支内訳書(不動産所得用)の書き方(PDF)
- 国税庁 令和7年分青色申告決算書(不動産所得用)の書き方(PDF)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(第85条・第126条・第135条)
- e-Gov法令検索 減価償却資産の耐用年数等に関する省令
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の申告の要否・税額・減価償却の計算は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。